「酒はほどほどに飲めば益多し」
「酒は天の美禄(びろく)なり。
少のめば陽気を助け、血気をやはらげ、食気をめぐらし、愁いを去り、興を発して、甚(はなはだ)人に益あり。
多く飲めば、又よく人を害する事、酒に過たる物なし」(巻第四の44)
『養生訓』貝原益軒
「温泉浴」が庶民の間で盛んになったのは、江戸時代だと言われています。
また、江戸時代に「銭湯」と名の付く公共浴場が生まれています。
箱根芦之湯温泉の「きのくにや旅館」さんでは、江戸時代の温泉浴を体験できますよ。
そして、様々な学者が温泉や入浴法について書物に記しています。
江戸時代の儒学者「貝原益軒」もその一人です。
「儒学者」は、現代で言うと「哲学者」です。
益軒は、医者ではないですが、薬学に精通しており、多くの書物を残しました。
300年以上読み継がれる名著
最も有名なのが代表作である『養生訓』です。
『養生訓』は1713年に出版されて以来、現代まで読み継がれる大ベストセラーの名著だ。
「講談社学術文庫」の『養生訓』は、1982年に出されていますが、2025年10月までに68回増刷されています。
『養生訓』が300年以上も読み継がれるのは、単に身体的な健康のみならず、普遍性のある生きる術や人生論をも述べているからです。
そもそも「養生」とは、「健康の増進を図ること」という意味です。
益軒は、医学や薬学だけでなく、日本の歴史や文学、文化、仏教、神道、武士道に造詣が深く、博学でした。

多彩なジャンルの知識と経験に基づいた、自分の身体で試した養生法を述べているので、含蓄豊かで説得力があるのです。
医学が現代ほど発達していない江戸時代に書かれたものなので、中には「えっ!?」と思うものもあります。
「睡眠と養生」(巻第1 総論 上)
「(省略)…….夜ふけて床について寝るのはよい。昼寝はもっとも有害である。……(省略)日頃から少なく眠る習慣をつけることが大切であろう」
現代では、30分程度なら作業のパフォーマンスを高める「昼寝の効用」が言われています。
ただ、よくよく読んでみると、「昼間になまけて寝るクセをつけると良くない」ことを言っています。
全体を読めば、「益軒先生」の言いたいことがつかめるはずです。
「講談社学術文庫」の『養生訓』も、原文を除いた約250ページに476項目あり、私もまだ全部読み切れていません。
現役医師が補足説明を加えた『養生訓』も出されているわ。
記事の冒頭の「酒」についての項目は、お酒好きの私にとっては、共感できる内容です。
お酒を全く飲まないのも「健康的」には違いないですが、ほどほどに飲めば得られる心身の「健康」もたしかにあるからです。

私が興味を持ったきっかけである温泉や入浴も「洗浴」という項目で述べられています。
『養生訓』は、いつでも読めるよう辞書のように傍らに置いておくのも良いでしょう。
何かの折に触れて、あるいは「困りごと・愁い事」があった時、関連する項目を開けば、何かヒントが得られるかもしれません。
現代風『養生訓』
様々な出版社から出されている『養生訓』ですが、今回最もおすすめするのが、齋藤孝さんの『図解 養生訓』(ウェッジ)です。
著者はご存じ、明治大学文学部教授の齋藤孝さん。
前回紹介した『論語と算盤』と同じ『図解~』シリーズの一冊です。
『養生訓』全文から50個を抜粋し、専門である「教育」や「身体論」を基に、著者自身の養生法を述べています。

原文の各項目と照らし合わせ、著者の習慣や家族、人間関係、考え方といった身近な具体例を述べているので、読みやすいです。
本の副題は「ほどほどで長生きする」
「やりすぎても、やらなすぎても良くない、何事もほどほどにすれば、幸せで健康で長生きできる」
『養生訓』においても、益軒の一貫した考え方だと思います。
しかし、著者は本の中で「仕事だけはほどほどではなく、やりすぎたほうが良い」と語っています。
戦後の日本は「仕事をやりすぎた」おかげで、多くの有名メーカー企業が生まれ、「モノづくり大国」になったからだ、と言うのです。

著者自身も「仕事をやりすぎた」おかげで、多くの著書を出し、コメンテーターや大学の授業をこなすことができました。
しかし、40代半ばで無理がたたり、酒の席で倒れてしまった、というエピソードも赤裸々に書いています。
著者は表側ではスピードの速い現代に生き、裏側で「養生」を取り入れよ、と述べている。
益軒が生きた時代は「人生50年」と言われていました。
益軒自身も、周囲で早くに亡くなる人を目の当たりにし、『養生訓』の執筆に願いを込めたと言われています。
益軒より22歳下の「東軒夫人」は、不幸にも出版した年に亡くなっています。
85歳で亡くなる前々年に執筆を始め、前年に書き上げて世に広まりました。
“口は言葉も身体も司るから注意せよ”
「禍は口よりいで、病は口より入るといへり
口の出し入れ常に慎むべし」(巻第三の2)
『養生訓』貝原益軒