街中や観光地で、「天然温泉」と書かれた看板を見かけたことはないでしょうか?
また、温浴施設のホームページやパンフレットでも、施設の「ウリ」として紹介されていることがあります。
普段何気なく目にしている「天然温泉」ですが、背景や意味についてはあまりよく知られていません。
改めて「天然温泉」について知ることで、温浴施設を選ぶ際の基準を持つことができます。
また、普段から温浴施設に行かれている方は、「温泉」に対するイメージが変わるかもしれません。
私は10年以上ホテル業界におり、温泉の管理も担当してきました。
また、普段から日帰り温泉によく行きます。
経験を踏まえた知識や考え方をお伝えすることができますので、参考にして頂けたら幸いです。
以下では、「天然温泉」の内容と、言葉にまつわる温泉用語も解説しています。
「天然温泉」とは、どういうものか?
「温泉」を管轄するのは「環境省」ですが、「天然温泉」の定義はありません。
環境省は「温泉法」において「温泉」を以下のように定義しています。
「地中から湧出する温度が25度以上か、指定する19種類の物質のうち、1つ以上規定値を満たすもの」
また、「日本温泉協会」は、「天然温泉」は、「温泉」と同じ内容のものだ、としています。
「日本温泉協会」は、大学教授等の専門家が会員で、温泉について研究や知識の普及をしている権威ある団体です。
「天然温泉」は言葉通り”自然のありのままの温泉”なので、「温泉」と同じものと考えてよいでしょう。
「天然温泉」という言葉はなぜ、どこから出てきたのか?
そもそも「温泉」は「自然」、「天然」のものなのになぜ「天然温泉」という言葉が出てきたのでしょうか?
多くは、「人工温泉」と明確に区別するためです。
「人工温泉」は、温水に厚労省が承認した鉱石や天然鉱物由来の薬剤を使用し、温泉成分を加えたものです。
ビジネスホテルや複合施設のスーパー銭湯で採用されていることが多いです。
私の地元に「人工温泉」ではない「温泉」を使用し、施設名が「天然温泉○○の湯」というスーパー銭湯があります。
一般的にスーパー銭湯は、郊外や都市部にあるので、自然の「温泉」を使用していないイメージが強いはずです。
「人工温泉」ではないことを強調し、施設の「ウリ」として「天然温泉」を謳うということです。
「天然温泉」は、事業者が強調したい、差別化したい、という意図で生まれたのではないか、と考えています。
また、単に”温泉”ではインパクトが弱いということもあるでしょう。
施設名にした時も「天然温泉○○」のほうがしっくりきます。
「天然温泉」の見分け方
見分け方は、ネット検索をして施設の公式ホームページや、その他サイトで確認すれば分かります。
現地での確認としては、「温泉」を使用している場合、温泉利用事業者が掲示すべき「温泉の成分~注意事項掲示証」が掲示されているので分かります。

「掲示証」は、「温泉法」改正に伴い、2005年から管轄保健所の認可による掲示が義務化されました。
「掲示証」とは別に、「日本温泉協会」が1976年に「天然温泉表示制度」を策定しています。「天然温泉」を謳うには、基準をクリアし「天然温泉表示看板」や「天然温泉表示マーク」が必要という趣旨です。
「掲示証」が義務化されたので、現在は「天然温泉表示看板」は必要ないですが、「天然温泉表示マーク」を名残でそのままにしている施設もあります。
「天然温泉」まとめ
・「天然温泉」は、温泉法上の「温泉」と同じものである。
・「人工温泉」と区別し、事業者の「より自然なもの」という、強調したい意図から生まれた用語である。
・現在では、施設の脱衣場の「成分~掲示証」により、確認できる。
その他温泉用語まとめ
その他温泉にまつわる用語をまとめてみました。
①「源泉掛け流し」
浴槽に常時、新しい「温泉」を注入し、オーバーフローさせ、オーバーフローしたお湯は、循環して再利用しない「掛け流し」の状態。
「源泉掛け流し」についは、別記事でも解説していますので、宜しければお読み下さい。
【知っているようで知らない!?】「源泉掛け流しとは?」温泉用語と共に分かりやすく解説!
温度調整や湯量を補う「加水」や、滅菌の為の「消毒」を行っている場合、「源泉掛け流し」を謳うことは出来ないとされています。
ただ、「加温」に関しては、成分の変化が少ないという点から、可能とされています。(公正取引委員会)
「加水」や「加温」などの実施状況は、施設の脱衣場に掲示されている「成分に影響を与える項目の掲示事項」によって確認できます。
2005年より掲示が義務化されました。

②「源泉100%掛け流し」
①の「源泉掛け流し」の状態で、「加水」、「加温」、「消毒」も実施していない、純度100%の「温泉」を供給している状態。
③「温泉掛け流し」
①の「源泉掛け流し」の状態で、温泉への「加水」と「加温」は可能になります。
謳っている事業者はあまり多くないと思われます。
④「天然温泉100%」
公正取引委員会は、「源泉100%」と同等の表記としています。
同じく「加水」、「加温」、「循環」、「消毒」を実施していない温泉になります。
謳っている事業者はあまり多くないと思われます。
上記のように、表記がいくつも出てきた背景は、やはり温泉事業者の「強調したい」「差別化したい」という意図によるもとの考えます。
⑤「レジオネラ菌」
温泉施設の脱衣場で、「レジオネラ菌」の「浴槽水水質検査証明書」を目にした方もいらっしゃると思います。
自然界に広く生息している菌で、36℃前後で最もよく繁殖すると言われています。
主に給水、給湯設備や循環式浴槽で、清掃、消毒といった管理が不十分だと、発生する事例が多いです。
菌を含んだエアロゾル(微細な粒子)が、肺やのどに入り込み、抵抗力の弱い人が感染すると、発熱や呼吸困難を引き起こし、最悪の場合死に至ることもあります。
現在、温泉施設と保健所が最も神経を使っているのが、「レジオネラ菌」の発生予防です。
保健所は施設の給湯設備や浴槽の管理状況について、事業者に対して調査、指導を行っています。
毎年、全国で発症と死亡事例がありますが、深刻な場合、施設は営業停止処分になる為、とにかく「レジオネラ菌」を発生させないことに躍起になっているのです。
私もホテルで浴槽管理の経験がありますが、最重要事項が「レジオネラ菌」の発生予防でした。
温泉施設の大浴場で、塩素の臭いが強いと感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
浴槽水を滅菌させる為、塩素系薬剤の濃度を高めにせざるを得ないのが現状なのです。
「源泉100%掛け流し」の温泉に入りに行こう!
温泉浴槽の最上級である「源泉100%掛け流し」は今や希少な存在です。
温泉成分の濃度も高く、色や匂いといった温泉の個性や効能が高く感じられるので、おすすめです。
「源泉100%掛け流し」は「ろ過循環」や「消毒」をしていないので、「不衛生」だという方がいらっしゃいます。
上から落とし込んでいるお湯が極端に少なく、浴槽のお湯が入れ替わりきらず、かつ入る人数が多い場合は、お湯が汚れてきます。
時間制にしたり、貸切制にすることで、調整している施設が多いです。
また、「源泉100%掛け流し」の施設は、浴槽水の入れ替え、清掃は毎日徹底して行っているはずです。
温泉は自然のものなので、「無菌」ではないですが、汚いものでもありません。
「飲泉」もありますし、70、80℃の高温の源泉だと菌が死滅することもあるでしょう。
「レジオネラ菌」は、給湯設備や浴槽の清掃、やお湯の入れ替えといった管理が不十分の場合、発生、増殖してしまうものです。
「レジオネラ菌」に対しては、「源泉100%掛け流し」の施設はなおさら意識が高いはずです。
とにかく、温泉という大自然の恵みに体を入れるという意識で、安心して「源泉100%掛け流し」を体感していただけたらと思います。