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 旅館やホテルのホームページやパンフレット、看板でよく見かける「源泉掛け流し」
 健康志向の高まりや「温泉ブーム」により、ここ10年で広く知られるようになりました。
 
 しかし、あらためて「源泉掛け流しってどういうお風呂?」と聞かれると、「なんとなくこんな感じ」としか答えられない方も多いのではないでしょうか?

なんとなく「良さそう」というイメージを持っている方も多いと思います。

 普段何気なく目にしている「源泉掛け流し」について知ることで、日帰り温泉や宿を決める際の一つの基準にすることができます。
 
 また、よく利用している「温泉施設」がある方は、施設のお風呂についてあらためてよく知ることができます。

 私は、リゾートホテルで10年以上の勤務経験があり、温泉や浴槽の管理も担当しました。
 「源泉掛け流し」のお風呂ではなかったのですが、浴槽の構造については多少知識があります。
 
 また、自然を相手とする「温泉」管理の苦労も知っていますので、経験を踏まえたお話をすることができます。

好きで温泉にもよく入りに行っています。

 この記事では、「源泉掛け流し」と温泉関連用語について、分かりやすく解説していきます。
 「源泉掛け流し」や温泉の奥深さを知って頂き、実際に行ってみたいと思っていただけたら幸いです。

「源泉掛け流し」の定義

 まず、「温泉」を管轄するのが「環境省」なのですが、「源泉掛け流し」についての明確な定義はありません。
 
 一般社団法人「日本温泉協会」が、温泉用語の解説で次のように述べています。

「源泉掛け流し」とは
浴槽に常時新湯の温泉を注入して溢流(いつりゅう)させ、溢流した温泉を再び浴槽に戻して再利用しない「かけ流し」の状態

 「溢流」とは、あふれ出ること、オーバーフローということです。
「日本温泉協会」は、大学教授等の専門家で構成され、「温泉」については、最も権威のある団体です。
 
 お湯の出どころの給湯口から、常に新しい温泉が注がれていて、浴槽からあふれて排水口に流れている状態の浴槽のことです。
 
 注がれているお湯はもちろん、あふれたお湯は再利用されません。

 あくまで外観のイメージですが、画像のような浴槽です。

「源泉」とは?「温泉」と違うの?

 次に「源泉」ですが、日本温泉協会は「源泉とは、温泉が湧きだす源(井戸)」としています。
 「温泉」の供給元である「源泉」には、3つの種類があります。

①自然湧出
岩盤等の割れ目から自然に湧き出る。

②掘削自噴
機械で地中の温泉を掘り当て、温泉やガスの圧力で湧き出る。

③掘削動力揚湯 
機械で地中の温泉を掘り当て、ポンプによりくみ上げる。

 「源泉」は全国の各温泉地に多数あり、ホテルや旅館等の「温泉施設」に「温泉」を送っているのです。

日本の源泉数は2万7920個もあります。(2024年)

 「温泉施設」のお風呂の脱衣場には、「温泉成分~掲示証」が掲示されています。
 施設の源泉名が記載されており、多くは「第○○号」等の、管轄の保健所が管理している台帳番号となっています。

「源泉」から湧き出たのが「温泉」ですが、環境省管轄の「温泉法」により定義されています。

地中から湧出するときの温度が25度以上であるか、指定する19種類の物質のうち、1つ以上規定値を満たすもの

「源泉掛け流し」と「循環風呂」

 「源泉掛け流し」と対照的な浴槽として、「循環風呂」があります。

「循環風呂」とは、浴槽からあふれ出ているお湯又は浴槽内のお湯を、ポンプによって循環させて、再利用している風呂です。

 人が入るので、循環しているだけでは、当然お湯が汚れてきます。
 多くは循環している過程で、「ろ過機」により汚れやゴミをとり、滅菌剤を注入し、お湯を再利用しています。
 
 また、循環しているお湯は温度が低下しますが、必要であればボイラー等で加熱します。
 一般的な中規模以上の旅館、ホテルの「大浴場」は「循環風呂」を採用していることが多いです。

循環風呂かどうかは、脱衣場に掲示してある「成分に影響を与える項目の掲示事項」を見れば分かります。

 「温泉」を使用した「スーパー銭湯」も、「循環風呂」になっているはずです。
 広い「大浴場」の場合、注いでいる温泉量では、浴槽のお湯が入れ替わるのに長時間かかるため、お湯の清潔度が保てないのです。
 
 源泉自体も、莫大な湯量を供給できるわけではありません。
 「露天風呂」等浴槽の数が多い施設では、なおさら「循環風呂」にせざるを得ないのが現状です。

「源泉掛け流し」は何が良いの?

 「温泉施設」にとって「源泉掛け流し」であれば非常に強い「ウリ」になりますが、「源泉掛け流し」だと何が良いのでしょうか?

良い点として、常に新鮮な温泉が注がれているので、温泉の成分、色、香り等の「個性」が損なわれず、効能が高いことがあげられます

 脱衣場の「成分~掲示証」に記載されている「泉質」や「成分」が保たれやすいということです。

 一方、「循環風呂」の場合、循環している過程で温泉の「成分」がどうしても変化してしまいます。
 
 一般的な広い「大浴場」では、給湯口から温泉が注がれていたとしても、循環ろ過によって成分が薄まる度合いのほうが大きくなります。
 
 循環の過程に「消毒」が加わればなおさらです。

「消毒」「加温」「加水」の実施の有無も、脱衣場の掲示で分かりますよ。

 さらに、「循環風呂」は、温度調整や湯量を補う為に水を入れる「加水」がされている場合があります。
 
 「循環風呂」は、程度の差こそありますが、温泉の「成分」や「泉質」に影響を与えてしまっているのです。

脱衣場の「成分~掲示証」はあくまで「源泉」の分析書であり、浴槽のお湯を分析したものでないことを知っておきましょう。

 必然的に「源泉掛け流し」は、小規模の旅館や「共同浴場」といった小さめの浴槽を持つ施設に多くあります。
 施設全体の3割程度と言われていますので、やはり貴重です。

おわりに

「源泉掛け流し」が貴重で、選ぶ価値があるという言い方をしてきましたが、決して「循環風呂」を否定するというものでもありません。
 
 たしかに、「成分」や「効能」の面では、「源泉掛け流し」の方が優れています。
 ただ、「循環風呂」でも「温泉」が入っていることには変わりないので、「効能」は感じることができます。

入った実感としては、違いを感じるのは難しいです。
私が「鈍感」と言われれば、それまでですが….

 実際、私が勤めていたホテルは、「循環風呂」でしたが、「泉質が良い」とお客様から高い評価を受けていました。
 私も何度か入りましたが、湯がなめらかで、保温効果があり、肌もすべすべになるのを感じています。

 泉質や注がれている源泉の量によっても違ってくるでしょう。

「塩化物泉」や「硫酸塩泉」は時間が経っても、あまり成分は変わらないと言われています。

 温泉についての正確な情報が大前提ですが、施設の浴槽を知ったうえで、行く施設を選ぶということが大事ではないでしょうか。

 私も脱衣場で服を脱ぎながら、掲示事項を見て「あっ!」と気づくことがよくあります。
 脱衣場の掲示事項をオープンにしている施設は、少ないのです。

浴槽について気になる方は、電話で確認してから行きましょう!

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